日本語

問、近頃誰ゆうか句に、降り風に向て并へり水馬、といふ句あり、水馬（スイバ）ハ文字読（ヨメ）ず、五月五日の競渡（ケイド）の事を鳧車（フシヤ）と云、水馬と云なれハそれにてもあるへくや、いろいろに訓を付ても五文字にならす、或人云、それハ水すましといふ虫也といわれしにて、五ツ文字に読おふせたり、されと水すましといふ虫ハ一名まいまい虫といふて円くして黒し、大サ大豆（マメ）ほどなる虫にて、水面をぐるぐるめくりて遊ふむしなれハ、ふく風にむいて并（ナラ）ふといふ、｛ミヅスマシ、マイマイムシ、アメンボウ、朱書｝、事解しかたし、水馬といふに別物ありや、答、いかにも水すましと訓すべし、此水馬と書ハ正字にて、まいまいむしの水すましにハあらす、畿内にて水すましと云、西国にてあめかたと云、遠江にてあめかすと云、江戸にてあめんぼうといふもの也、其形大なる蚊に似て足高く水を走る、風の吹ときハ風に向ひていくつも并ひて居るもの也、又飴（アメ）の匂ひあるものなればあめんぼう、あめかす等の名あり、此虫の事を唐土にて水馬といふ、又水黽（ハウ）とも云、又まいまいむしハ江戸にて水すまし、京にてうづむしと云、水面をうづにまハるゆへの名也、大和及越前にてまひまひむしと云、漢名?虫と云もの也、水馬の水すまし、?虫の水すまし、同名二物なりと知べし、｛【俳諧多識編　上】、朱書｝