「ホモ・メモル・モリ(= 死を知る人)」としての人間の営みのうち、精華というべき活動が、書物(文献資料)を残すことなのではなかろうか。人は本によって、個体としての死を乗り越えて、異なる世代間のコミュニケーションを可能とした。したがって、本を著す人のみならず、書写する人、出版する人、保存管理する人、さらに本を発掘収集する人、正しく解読する人等々、本による世代間のコミュニケーションに関わりを持つすべての人を、人の中の人として「ホモ・リブラリウス(homo librarius = 本の人)」と称しておきたい。
我々はホモ・リブラリウスたるべく、しばしば文庫に足を踏み入れ、古典籍を最大限に活用することによって、死者たちの声に耳を傾けなければならない。このシステムは、そのための一つの試みである。
<こころざし>
従来の日本の古書目録は記述が簡略で、その書物に何が書いてあるのか、どのような書誌的特徴を備えているのか、十分に把握することが出来ませんでした。本システムは、内容や書誌が適切にわかるように、踏み込んだ記述をはかったものです。これによって、たとえ文庫の生き字引的な存在がいなくとも、資料内容が把握され、未来にわたって文庫が有効に活用されることを期待します。
また、資料に記された人名や印記などについて、検索を駆使することによって、資料間に有機的なつながりが見出せる可能性もあります。これは古人のかつて知らなかった悦びであるはずです。
日本の全ての文庫について、このようなシステムが備わることを期待します。そうすると、個々の資料だけではわからなかったことが次々と判明し、書物を残してくれた死者たちは俄然多くのことを語り出してくれることでしょう。
<名古屋大学附属図書館神宮皇学館文庫について>
神宮皇学館文庫は、戦前官立大学であった神宮皇学館大学の旧蔵書です。同大学が昭和21年3月に占領軍の指令により廃学となった際に、近隣の官立大学であった名古屋大学に引き継がれました。それらの蔵書のうち、伊勢神宮および御師関係資料の一部は、翌22年7月に名古屋大学より神宮文庫に移管譲渡されましたが、それ以外のものは、翌23年3月、名古屋大学附属図書館に納められ、神宮皇学館文庫と命名されました。
その古典籍の多くは、伊勢神宮の師職(御師)であった来田新左衛門家の蔵書に由来し、歌書・連歌書・有職故実書を中心に価値の高い資料が数多く含まれています。ところが、これまで簡略な冊子目録しかなく、またその目録に漏れた資料、つまり国書総目録に未収録の資料も含んでいます。さきに記したように、同文庫の書籍群が本来名古屋にあることを企図せずに収集伝来されたことを思う時、より広く、より適切に世の利用に供するためには、まず出来るだけ詳細な書誌目録を作ることが急務と考えます。ここに新方式による、〈記述的〉古典籍書誌目録を公開する次第です。
<参考文献>
(和古書)
1.塩村耕『近世前期文学研究―伝記・書誌・出版』(若草書房、2004)1章2 OPAC
2.塩村耕編『岩瀬文庫書誌目録のための試行千点目録』(汲古書院、2001) OPAC
3.『古書は語る』図録(名古屋大学附属図書館、2002)前半・後半 OPAC
4.『こんな本があった!―岩瀬文庫平成悉皆調査中間報告展 I ・ II 』図録(岩瀬文庫、2004・2005)
<データベースの利用について>
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サムネイル画像は、鴨長明,『発心集』(名古屋大学附属図書館所蔵)「名大システム 古典籍内容記述的データベース」収録(https://da.adm.thers.ac.jp/item/n004-20230901-02310)の8ページ より