松柏科

Vol. 132 松柏科

伊藤圭介

Japanese

○余嘗テ清国副公使張斯桂氏ニ橡樹ノコトヲ問ヒシニ、同氏余ニ向テ其レハ何ノ書ニ在ルヤト問ヒ返シタリ、其故ハ橡樹ノ意味土地ニヨリテ同シカラス、北京ニテハ「クノギ」ノコトナリ、両広ニテハ何トナリ也、巴蜀ニテハ何トナル等ノ殊別アルカ故ニ著名ノ生地ヲ知ルニ非サレハ説明シ難シト云ヘリ、独橡ノミ然リトナサス、各種ノ草木概ネ然ラサルハ無ク柏ノ如キモ日本ニテハ「カシハ」ト訓スレトモ朝鮮ニテハ我国陸中ニテ朝鮮松ト唱フル、五葉松ノ様ニ用ヒ、支那ニテハ「ヒノキ」ノ総称トナセリ、是ニ由テ之ヲ観レハ我国動植物ノ名称ヲ改正シ支那動植物ト同一ノ文字ナラシメント欲スルハ到底行フヘカラサルナリ、今ヨリ二三箇月前ノコトトカ、官報中山林ノコトニ斥〓ト云フ一ノ六箇敷キ字アリケルニ諸方ヨリ解スル能ハサル人民多ク之ヲ学者ニ質スニ学者モ知ラス、之ヲ字書ニ求ムルモ字書ニ求ムルモ字書ニ木ノ名トアリ、現ニ東京府庁ノ農商課ナトニテハ職務上必須置カサルヘカラサルコトナリトテ之ヲ農商務省ノ山林局ニ問合セタルニ「ヒバ」ナリトノコトナレバ、然ラバ羅（ラ）漢柏ノコトナルヤト問ヒシニ然リトノ回答アリシトカ聞ケリ、斯ル混難アリテハ字義ニ於テハ正シカルヘキモ実用上不都合千万ト謂サルベカラズ、明治十七年八月十五日、藤川、津田仙説【大日本教育会雑誌　第参拾七号】

大日本教育会雑誌第参拾七号

張斯桂

津田仙

10148386

470.3-I-132(151)