石南科

Vol. 075 石南科

伊藤圭介

Japanese

○馬酔木の考、万葉集に馬酔木とよめる歌は六首あり、古版本の訓ハいづれもツヽジとあり、但し古くハ此馬酔木にツヽジ、又アセミの両訓ありしよし、顕昭の袖中鈔ニ見え、又古今六帖、赤人集、家持集などに万葉集の歌を載せたるに為アセミとよめるとツヽジとよめるがあるなり、さて此馬酔木ハ〓木のことなりとハ近頃の本草家の説一定したるやうなれど、万葉の歌のおもむきにてハいと愛らしく、且山中にありてよく人の目づくものゝ如し、しかるに〓木ハ其花さほどうるはしからず、人の目につくべきほどのものとも見えず、これによりて熟考ふるに、かの馬酔木ハ茵草の事にてハあらざるに也、苗芋ハ花の形〓木よりうるはしく愛らし■、しかかもふハ本集、万葉、巻三の歌に茵花香君（ツヽジハナニホヘルミキ）云々とありて、茵をつゝジニ充なり、さて輔仁の本草和名には茵芋、和名につゝし、一名おかつゝしも見え、和名抄も同ト、又惟宗時俊が医家千家文の苗芋■細とありて自注に茵芋、和名おかつゝし、杣案／ミヤマシキ云、茵芋深山ニ生ス、西京ニテハ■馬、又比叡山等ニアリ、潅木ナリ、亦花戸ニモアリ、人■込■■ニモ■、葉形モツユクニ■テ厚シ、花穂ヲナシ、小白花ヲ攢■■、冬赤実ヲ結ブ、実ニテハ楔木ノ実ヲ見■■、｛茵芋ノ花ハ格別見ドコロモナシ、却テ〓木ノ花ノ方優レリ、朱書｝、｛ツヽシハ漢名ノ躑躅ノ如ク木細形ナリ、ソノ産処ニ就テハイハツヽジ、又オカツヽジノ称アリ、今世ニ通シテ山ノ平地ニ生シアルモノヲ俗ニオカツヽジト云、ソノ巌上ニ枉ルモノヲイハラツヽジト呼ブ、サツキツツジ、即チ是ニシテ好ンデ渓間危巌ノ上ニ生ス、即チ杜鵑花ナリ、朱書｝

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470.3-I-75(93)